第30章 その存在は神に似て
トラックのフロントは凹み、窓ガラスが割れているが、エアバックが起動し、運転手は気絶しているもののどうにか無事なようだ。
砂煙に咳き込む小柄な男――スタインベックは、腕の骨などが折れていて、軽傷とは言い難い。
その向こうから現れたラヴクラフトの首は不自然に曲がっていた。
「……驚いた」
言いながら、彼はコキッと音を立てて首を戻す。
「連中は?」
「気配がない……姿を消して逃げられた」
「追おう」
任務続行を口にしたスタインベックの耳に、ファンファンというサイレンが届いた。
あっという間にパトカーに取り囲まれ、降りてきた地元警察が二人に「動くな!」と銃口を向ける。
「本部、通報の誘拐犯らしき2人組を発見しました」
警察が無線機で本部と連絡を取る様子に、スタインベックが両腕を上げた。
それを真似して、ラヴクラフトも小さく手を上げる。
「事前に通報してあったって訳だね」