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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第15章 鏡の襲撃者


 攻撃の手は緩まない。
 それどころか、どんどん苛烈になってくる。
 詞織は両手を広げて元議員の前に立ち、両手で足りない分は自分の血液を伸ばして壁を作っていた。

 自分の負担を減らすため、元議員とSPの二人には小さく固まって身を低くさせている。
 鏡の破片の威力は思いの外大きく、強く深く刺さるため、薄い壁ではすぐに貫通してしまうのだ。
 だからわざと自分を攻撃させて血を流し、それを血液の壁に足して厚く補強する。

 揺れる血液の壁の隙間からは、鋭く尖った、槍のように長い破片が飛び交っており、時おり壁に先端を覗かせた。
 もし少女に当たれば、死に至らしめるのも難しくない。
 詞織もそれを分かっており、当たれば危険だと判断したものは確実に防ぐ。

 吾妻と錦戸は、沈痛な面持ちで傷だらけの少女を見つめている。
 己の無力さに唇を噛み締め、それでも、いつでも戦えるように拳銃を握り締めていた。
  元議員は大きな身体をガタガタと震わせ、身を小さくして少女に守られていた。

「うぁ……ッ!」

「ひぃ……っ⁉」

 詞織の身体に細かな破片が刺さり、少女は小さく呻く。
 それに驚いた元議員が悲鳴を上げた。
 少女は青い顔に微笑を浮かべて口を開く。

「何を、怯えているの……? 大丈夫よ。絶対、あたしが守ってあげるから……」

 さっきまでのふてぶてしい態度はどうしたの?
 いつもみたいに、ふんぞり返っていればいいのよ。
 すぐに、終わるから。

 そう言って、詞織は紅い瞳を細めた。
 少女からはおびただしいほどの量の血液が流れ、失われている。
 それでも少女は一歩も引くことなく、自分が守る三人に微笑む。
 三人はその笑みの美しさに、恐怖も悔しさも忘れて見惚れていた。
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