第14章 その頃の二人
吾妻と錦戸は、会議室の扉の外で待機していた。
その間、錦戸は壁に背を預けて何やら携帯を触っている。
「おい、錦戸。何をしているんだ?」
「ん~? 今? 彼女と別れようと思って」
「別れる? なぜだ?」
「好きな子ができたから?」
「好きな? 女か?」
「いや、女以外にいないでしょ?」
「そうか? 俺は別に偏見はないがな」
「オマエ、ボクのこと何だと思ってるわけ?」
そこで吾妻は、仏頂面を険しくして考えこむので、錦戸はそれ以上追及しないことにした。
むしろ、その次に繰り出されるかもしれない答え次第では、コンビの解消もありえる。
「しかし、好きな女ができたから別れるのは仕方のないことかもしれないが、少々勝手ではないか? それもメールで言うなんて」
「二股かけるよりはいいでしょ。それに、向こうだって遊びだよ。本命の彼氏もいるしね」
「浮気か?」
「いやいや。遊ばれてるのはボクだから」
苦笑しつつも、錦戸の顔には悲しみや自嘲、悔しさなどの感情は見られない。完全に遊びと割り切っているようだった。
「それにしても、女なんていたか?」
錦戸は、思い立ったら即行動派。
行動を起こしたのが今日ならば、その女と出会ったのも今日のはず、と思っての発言だ。
すると、錦戸はしれっとした顔をして、驚くべき人物の名を出した。
「詞織ちゃんだよ」
「そうか……ん? 詞織ちゃん? 詞織嬢か?」
吾妻は一瞬誰のことか分からなかった。
けれど、段々と理解が追いつき、珍しく無表情を崩して怪訝な表情を現す。
ここで取り乱さないのは、吾妻という人間の性格だった。
「お前、自分がいくつか分かっているのか?」
「半年後には二十九になるね」
そうだろう、と吾妻は頷く。
吾妻と錦戸は同期で、同い年だ。
「詞織嬢は?」
「十七だと聞いているよ」
十七……十二歳差か。
「犯罪ではないか? 相手はまだ未成年だぞ」
「愛があれば年の差なんて」
「どうにもならんぞ」
「そんなことはないさ」
言いながら、錦戸は携帯を懐に仕舞った。