第14章 皇帝
「お兄さんは…
智さんは生きてるって事?」
翔君の言葉に、ドクンと胸が鳴った
そう…だよね…?
そういう事になるよね…?
まーくんのシャツの裾を握る手が
無意識に力んでしまう
…生きてる。
兄さんが…… 生きてる……!
「俺っ……!」
真相を確かめたい、そう思った。
自分は大野 智だと主張していたから
医師からも警察からも、本物の大野 智の行方について問われる事は一度もなかった
ただ、なぜその場所にいたのか
そこで何をしていたのかは
日を置いて何度も尋問された
『海の青と空の青は同じだって事を
確かめたかったんです
千葉を選んだのは…子供の頃に来た事があったから
懐かしいな、って思って』
小学校に入る前
千葉の海に来たことがあるのは事実だ
大人達はそれだけで納得した
引き寄せられる様にフラッと何処かへ行ってしまう放浪癖のあった兄に
弟が付き合わされたのだと解釈したんだろう
駅の防犯カメラには、兄さんと俺が並んで歩く姿が映し出されていた
『君の隣に居るのは誰かな?』
『…わかりません』
『この人と一緒に居たんだろう?』
『いえ。一人でした』
発見された時、俺は一人だった
酷い怪我をしていたにも関わらず
波打ち際から少し離れた砂浜の上に横たわっていたそうだ
俺には何も言わなかったけれど
兄弟のうち、一人は意識不明の重体
もう一人は行方不明という扱いだったのだろう
誰一人として
大野 智が生きているとは夢にも思っていなかった
そう、俺自身も。