第28章 こんな気持ちになるのは初めてで……
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『兄貴、体調はどう?』
『博臣、見舞いに来たよ〜?』
そう言いながら博臣の部屋に入って来たのは博臣の妹の美月と親友の秋人だった。
「兄貴……?」
「あれ。 春野さんだ……」
「あら、本当……」
「あれからずっと居たのかな、ここに……」
「そう言えば部活に出ずに兄貴のお見舞いに、って貴方言ってたわね?」
「あぁ。けど、こんな時間までいるなんて……」
秋人が言った言葉に美月は眠ってる華菜の方に目を向けて口を開く。
「そうね。もう外も暗くなりかけてる時間なのに……」
美月が言ったように外は薄暗くなり始めていた。
「…………」
「どうしたの、美月……?」
美月は秋人の声に反応を示すことなく黙ったままでいる。そんな美月の頭の中では今、ここで眠っている華菜を起こすべきなのかそのままにしておくべきかで悩んでいた。
「こんな時間に帰らすわけにはいかないし……」
「あの、さ……僕が春野さんを家まで……」
「秋人は彼女の家を知ってるの?」
美月が秋人にそう尋ねると彼は「いや、知らないけど……」と、口ごもりながら答えた。
そんな秋人を横目に見ながら美月は呆れた顔をした。
「なら、言わないでくれないかしら。 別に秋人に頼もうなんて最初から考えてなかったのだから」
「うわー、酷い言い方だな美月は。 どうしたの? なんだか機嫌悪くないか……?」
「機嫌悪くなんてないわよ。 ただ、兄貴の部屋に私以外の女の子が居るのがなんだか少し……」
彼女はそう呟きながら風邪で寝込んでいる自分の兄に目を向けた。
そして、そこに寄り添うようにして眠っている華菜を見ながら美月は思った。
ーーあの子が兄貴の彼女になるなんて……、と。
そう思いながら美月は昨日、博臣としたやり取りを思い返し、呟いた。
「……あの時、変態兄貴には気を付けなさいって言っておいたのに」
そう呟いた美月の声は誰の耳にも届くことはなかったーー……。