第180章 〜後日談〜家康様side〜
人通りが多い時間帯。
駅のホームを出て、他愛のない話をしながら、真っ先に帰路に向かい、何とか理由をこじつけて部屋に連れ込む……のが、この後の俺の予定。
だったけど。
「ホカホカで美味しい〜〜っ!」
計画を平気で狂わせたひまりは、上機嫌で湯気がまだ出ているあん饅を頬張りながら、あのショーウィンドウの前で立ち止まった。
ウェディングドレス……。
人混みに簡単にかき消されたであろう、呟き。けど、俺には届く。あん饅を口一杯に頬張りながら、じっーと真剣に見る姿は一見不釣りあいな光景。
「……進路。これにしとけば」
「ほぇ!……はふはうっ!(聞いてたの!)」
「ぷっ。だから、食べながら喋るのやめなって」
まぁ、何言ってんのかわかるから良いけど。
ひまりは急いであん饅を飲み込むと、
「……ウェディングドレスのデザイナー。一応、一番の候補なんだけどね」
しんみりした声で言う。
予想外の返事に思わず首を横に動かす。俺はそっちの意味で言ったわけじゃないんだけど……。
ひまり達が休み時間にしてた話。聞き耳たてなくても、あれだけ大声で話してたら普通に聞こえる。
ーー良いじゃん!永久就職!
ーー進路にお嫁さんなんて絶対、書けないよ!
全否定するから、若干拗ねてたけど。
政宗にも揶揄われたし。
(不機嫌になった理由は、それじゃないけどね)
ひまりは、完全に意味を履き違えたまま、残り少なかったあん饅を食べ終わった。
「でもね。ウェディング業界だとプランナーとか他にも色々あって……絞れなくて。それに、遠いから……」
真剣に悩む姿を見て、さすがに今更話を戻すわけにもいかず……
「電車通学で、通える距離になかったっけ?デザイン専門学校」
「……でも、医大とは反対方向になっちゃうもん」
俺は一瞬、反応に遅れる。
ひまりが繋いだ手を握り返して、俯くまでの間、固まり。
(何ソレ……完全に浮かれるんだけど)
やっと動く。