第167章 涙色の答案用紙(31)修学旅行編
(家康が運んでくれたんだ)
朧げな記憶を辿れば、微かに香りと温もりを身体が覚えていた。
「ありがとう」
「何の話?それより、お願いごとしなくて良いの?」
「だ、だめ!集中するね!」
首に回していた手を離し、目を閉じて腕の中で祈るポーズをする姿に、家康は口元を緩め……
(石碑までお預けされるとはね)
可愛いお姫様を少し恨めしそうに見て、今まで焦らしてきたお仕置か軽い罰か何かだと諦め、自分も祈りながら橋を渡り切ろうとした時……
フッ。と、頬に冷たい風が掠め……
『家康!!』
『ひまり!!』
幻聴……。それにしては、はっきり聞こえ思わず振り返った。
ひまりも聞こえたのか、目をパチリと開けさっきまで自分達がいた、橋の真ん中に視線を移す。
すると……
『ごめん。俺が悪かった』
『……寂しかったんだから!』
暗闇の中、抱き合う二人。
((え……!))
家康とひまりは顔を見合わせ、再び橋を見る。
しかし、ただ暗闇。
「い、今の!何!?一緒の着物を着てたように見えたけど…っ!」
ひまりは夢だろうかと、
自分の目を疑い頬を抓る。
「……幽霊とか?」
「もう!冗談でも言わないで!ばかぁ……っ!」
そういった部類が大の苦手なひまり。
(ちょっ///はぁ…早く石碑、行きたい)
家康は明後日を切実に願う。
自分の身体に、ガッチリとしがみ付くひまりの肌の柔らかさに、内心ハラハラドキドキしながら、橋を渡りきった。
ひとつしか出来ない願いごと。
けれど、ひとつ願うことで……
叶う願いが二人にはあった。