第165章 涙色の答案用紙(29)修学旅行編
追いかけるかのように
漆黒の雲は渦巻き近づいて来る……
近道の地図を頭に巡らせながら。閑静な裏道を草履で走る。
今までのひまりとの思い出。振り返る暇なんて今はない。
(思い出の中にいくらひまりがいても、意味がない……っ…)
不慣れな着物と草履。それでも足が止まることはない。濡れた地面が邪魔しようが、息が上がろうが、関係ない。雨足が強まる度、焦りが増す程。俺の足は早まる……
焦らして、ひまりを追いかけさせた。
今度は俺が、ひまりを追いかける。
(今度こそ絶対に離さない……)
曲がり角で一旦、足を止め左右に首を動かす……手を強く握り、食い込ませ足を再び動かす。
次、この手にひまりを捕まえたらお互いの気持ち確かめ合うまで、全部言い合うまで離す気なんてない。傷ついた顔させる前に、全部受け止める。
俺は頭を振り、
髪に滴る雨を振り落とす。
その拍子に限界に近づいた足がズルリと滑り、体が傾く。咄嗟に近くの壁に手を突いて支え、はぁ…はぁ……と、一度だけ呼吸を整えた。
すると懐から振動が伝わり
携帯を取り出す。
「家康!急げ!」
「時間が早まっています!」
電話越しに秀吉先輩と三成の声。
二人がこっちに来ている事情は、さっき明智先生から聞いている。
「時間がないので、用件だけ言わせて下さい」
聞き覚えのない声。
しかし用件を聞いて、声の主が佐助って男なのがすぐにわかった。
「色々と不可解な点があるのですが説明は控えさせて頂き、今の状況をあえて言葉にするなら……」
彼女が強く何かを願って
いるのかもしれません。
もしかしたら時間を戻したい。
取り戻したい。そんな心が……
ワームホールを呼んでいる。
(ひまり!!)
俺は急いで電話を切る。
再び走りながら、
ひまりに掛け……
耳に当てる。
プッープッー………
「くそっ…!」
(俺の願いは……)
最初から一つしかない。
敷地に入り、池に架かる……
「赤い橋」を視界に捉えた。