第165章 涙色の答案用紙(29)修学旅行編
何もかも濡らすように、
雨は黒い空から降り続ける……
地面を弾いて、そこに水溜りをつくり時間をかけて広がっていく。
数えきれない思い出が集まって、今があって、明日に繋がっていくように。
(その思い出が、今を壊したら……どうしたら良いの……?)
ただ漠然と重い足取りで赤い橋の前に辿り着いた私は、屈み込み暗闇の中、ヘアピンを探す。巾着の中から携帯電話を取り出して、画面を見て指が止まった……
皆んなからの着信。
一番、多かったのは家康の名前。
(また、探してくれてるのかな……)
暗闇の中、携帯の角下でキラッと輝く……イルカのストラップ。
夏休みの水族館。携帯を預けたまま迷子になって……仲良い兄妹が私達を会わせてくれた。
だから唯一これだけは、タイムカプセルの箱に閉じ込めてない。対になっているイルカが離れ離れになるみたいで……可哀想な気がして……
でも、理由はもう一つ……。
私は片方の手で、
着物の袂を持ちながら。
頼りない携帯電話の明かりを頼りに、ヘアピンを探す。普段ならこんな時、防水の携帯で良かったな、って呑気に考える私はいなくなっていた。
橋の手前、両側の木の下。
垣根、草をかき分け探す。
でも、全然見つけれなくて。
じわっと目頭が熱くなり、
ぽたぽた降る雨とは別で……
生温いものがぽたりと頬を伝う。
涙と雨が混じる。
ただ、冷たいだけだった。
(大切なモノなのに……っ)
壊れたはずのヘアピン。
まるで、生まれ変わったみたいに。
誰かが届けてくれた。
(家康……)
私はフラリと立ち上がり。
橋の前に来ると、
携帯の画面に指を滑らす。
でも雨に濡れて……
操作が上手く出来なくて。
やっと呼び出すボタン……
その画面に辿り着き、ポンと押して……
耳に当てる。
プッープッー………
繋がらなかった。
(私の願いは……)
電源を落として、携帯を胸に抱く。
そして、一歩……
橋に足を踏み入れた。