第164章 涙色の答案用紙(28)修学旅行編※家康様side
赤い車が走り出した頃__
呉服屋で着替えを終えた、弓乃と政宗。
荷物や制服がまだあるのを見て、ひまりが戻ってくると思い待機していた。
「ひまり……」
「お前が女々しいと調子狂うだろ?」
弓乃は病院での出来事を思うと、気が気でなかったのだ。
「大丈夫だ。今の家康なら、な」
政宗は、あの日を思い出す。
ーー政宗……。
自分の腕の中で見上げ、ぎゅっと目を閉じたひまり。政宗は頬に触れ、家康といた時とは違う香りに、酔い……
床に押し倒した。
まるで、自分の色に染まったような快感を感じ、栗色の髪に顔を埋め……
ーー好きだ。お前の全部、寄越せよ。
耳元で囁き、返事を待った。しかし、ひまりは返事の代わりに肩を震わせ……
ーーごめ…ん…ね。ダメなの。閉じ込めても、忘れようとしても……っ。どうしても、家康が離れてくれない…っ。
目が合うだけで、
私の全部すぐに持っていくの。
(あれはキツかったな。流石に)
まぁ、最後に良いもん見せて貰ったけどな。
ーー泣くな。また、笑わせてやるから。俺は、笑顔を戻せねえからな。これからも、笑わせてやるよ。
ーー政宗……あ、りがとう。
泣きながら見せた穏やかな微笑み。
(あれだけは、俺専用だったな)
『ごちそーさん』
弓乃は、目を張るように政宗をまじまじと見つめる。
「何だ?
鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」
「初めて見た。
政宗が悲しそうに笑うトコ」
政宗は少し目元を赤らめ、
グイッと弓乃の頬を引っ張った。