第29章 月見ず月(1)
五月のはじまり___
いつも通りの朝。
昨夜、散々悩んだ結果…約束は約束。そう何度も自分の中で言い聞かせ、家康の携帯にコールを掛けた。
プルルッ……
二日後、大型連休の
ゴールデンウィークに入る。
今日と明日電話したら、
当分朝練はないから……。
(普通に、自然にしないと!)
いつもワンコールで、出てくれた電話。
プルルッ…プルルッ…プルルッ…プッ。
今日は何度目かのコールの後、
受話器があがった。
「……おはよ」
「お、おはよ!朝練、頑張ってね!」
プツッ。
一方的に自分だけ喋って、
切ってしまった電話。
しまった!
(何やってるの!私のばか!)
絶対、感じ悪かったよね……?
怒ったかな、家康……
もう、一度掛け直そうかと悩んでいると
メールが来て……
『ありがと』
それを見て私も、
『薬、ありがと』
直接言う予定だったのに、
メールでしかお礼が言えなかった。
帰ってから気づいた。
鞄の中に入ってた、丸いプラスチックの箱。裏面に貼られた取扱処方のシールを見て、すぐに家康からだって解った。
家康のお父さんが経営してる、病院の名前が書いてあったから。
(返信はなし……か)
はぁ。
昨日から溜息のオンパレード。
家康とは今までも何度か喧嘩して、ぎこちない時もあったけど……
今回はぎこちないの意味が、少し違う。
(ゴールデンウィークに、遊ぶ約束……家康ともしてたんだけどな)
どうしよう。
最近出来た市外の水族館。
完成前からずっと、行きたいなぁ。って思ってて。
そしたらこの前、家康が誘ってくれて凄く嬉しかったのに。
(喧嘩したわけじゃないし、断る理由もないし、行きたいし……うぅ……)
もう、悩んでいていても仕方ない。
無遅刻、無欠席目指すって決めたのに学校を休む訳にはいかない。
私は、支度を始めた。