第151章 涙色の答案用紙(15)
体育館に響くホイッスル。
それが合図になり、
ジャンプボールが始まる。
試合時間は十分間。
ボールの突く音。
コートを駆け抜ける音。
ボールがバンクにあたって、吸い込まれるようにゴールに入る瞬間が好き。
ドリブルしながらディフェンスを交わして、ゴールまで一気に走る。
「ゆっちゃん!」
私は前を塞がれ、なかなか抜けなくて、くるっと腰を使って回りボールを胸元に運ぶ。
「任しとい……あっー!」
足取りがいつもより重くて、私はゆっちゃんにパスを送る。すると瞬発力の良い築城さんが現れスラリと伸びた手を武器に、ボールを奪うと反対側のゴールに向かって走り出す。
(視界が霞む……)
ゆっちゃんが急いでその背中を追いかけていくのが見えて、私もそれに続くんだけど……頭がズキズキして足元がフラついて……思うように体が動かない。
「あら、今日は調子悪そうね?」
「……そ、んなこと」
ないよ。って、言いたいのに。変な汗が背中に流れる。ただでさえ、湿っぽい体育館の中。霞かけた視界の先で先生が入り口の扉を開けるのが見えた。
多分、空気を入れ替えようと……。
「本当にどうしたの?顔色悪いわよ」
築城さんは両手を広げプレーを続けながら、声を掛けてくれる。私は、大丈夫と返事をしながらも……
ズキンッ。
ズキズキッ。
数日の寝不足。
季節の変わり目。
新学期に入ってからまだ、それほど経っていないのに。もうすぐ修学旅行があるのに。
限界にきていた。
心も身体も。
グラグラと空間が歪み始め、築城さんの顔も揺れて……ボールを突いていた自分の手が止まる。
傾く身体。
「ちょっと!……先生!先生!」
ボールがポンポンと数回弾んだ後、
コロコロと転がるのが見えて……
転がった先に、ガヤガヤと入り口から数人の男子生徒が、野外走を終えて入ってくるのと……
天音ちゃんが、
家康に駆け寄って行く姿が見えて。
私は意識を手放した。