第149章 涙色の答案用紙(13)
少し湿ったシャツが、頬にあたる。
でも、政宗の体温はあったかくて……耳に届く、トクトクとした心音のリズム。
(相合傘なんて、家康とした以来……)
こんなに近くに政宗が居てくれてるのに、どうしても家康が浮かぶ。照れ臭そうにぶっきら棒に、手に持つ折り畳み傘。狭いとか、ブツブツ文句言いながら自分は反対の肩びしょ濡れにしてたっけ。
(家康の優しさは、いつもそうだった)
パシャパシャと足元に弾く雨。
水溜りに気をつけながら、歩いた。
「お前はただでさえ、そそっかしいんだ。気をつけろ」
「うん……。ごめんね。それより、バイク置いてきて大丈夫だったの?」
「当分雨らしいからな。今度の休日に、取りに来るつもりだ。なんなら、一緒に行くか?」
「いいの?政宗、お店忙しいんじゃ……」
ここ数日、只でさえ送り迎えに時間を取ってくれてる。
「いいから、言ってるんだろ?その代わり、店……少し手伝えよ?」
「私なんかで良かったら、手伝わせて!送り迎えして貰うお礼に、少しでも」
清掃でも、接客でも何でもするから!
ようやく出た私の口から大きな声。
少しでもお礼したいのと、何かをしている時間が今の私にとって一番、欲しい時間。だから、そのお誘いは素直に嬉しかった。
「礼か……」
政宗は珍しくポツリと呟く。足を止めて私の頬をふにっと摘むと、着いたぞって言いながら白い歯を見せて笑ってくれて……
そのまま、何故か私の手に傘を渡した。
いつの間にか着いていた自分の家。
「え?玄関まで走るから!傘、良かったら使って!」
「要らねえよ。この後、頭冷やしたくなるだろうからな」
え……?
政宗の顔がスッと傾く。
反応に遅れた私は、ただ目を見開き……
足元でパシャッと、水が跳ねる。
外気に晒された首筋。
そこに柔らかくて
熱いモノが触れて……
ピクンと体が跳ねた後、
甘噛みされたようなチリっとした痛みが走った。