第145章 涙色の答案用紙(9)天音ちゃんside
ザァァァァ……。
激しく叩く雨。
グイッと身体を離され、顔を上げる。
すると、
いっちゃんの顔は苦しそうに歪み、瞳は暗いコンクリートを映して灰色に染まっていた。
「私は……ひまりちゃんみたいに、見て貰えないの……っ?」
瞳から雨粒とは違うものが混じり始める。
「七年間。ずっと心の奥にいっちゃんがいたんだよ!」
自分でも驚くぐらい、大声が出た。
誰にも恋なんて出来なかった。
告白されても、何かが違うって。
いっちゃんに会って、やっとその理由がわかった。
「……七年間?何言ってんの。……俺のひまりへの想いは」
いっちゃんは私から手を離す。
そして手紙を持っていた方の手を、口元まで運ぶと目を閉じた。
そして薄っすら開く。
さっきまで濁っていた瞳は消えていて……
翡翠色の瞳色が手元だけを見ると……
「……それ以上だ」
水分を含んで溶けた手紙。
いっちゃんはそれにキスをした。
プロフィール帳を持ったまま固まる、ピンク色のランドセルを背負った小さな身体。
ーーひまりちゃん。知ってる?初恋って実らないんだって。
ーーそっかぁ。
ひまりちゃんの
笑顔を一瞬だけ奪った、あの頃の私。
そして完全に
笑顔を壊してしまった、今日の私。
実らない初恋。
それは、自分に言いたかったのかもしれない。
真っ直ぐな愛。
純粋な愛。
歪んだ愛。
深くて濃い愛。
まだ、見えない愛。
どの愛もまだ青くて、未完成……
しかし、確実に愛は
「今」ゆっくりと変化していく……
迷い、ぶつかり、絡み、混じり合いながら。