第137章 涙色の答案用紙(1)
新学期。
久々の一人で登下校。
ちょっと寂しいけど、私の足は軽快。
弾むように動いて、段差があるだけでぴょんって思わず飛んで。
鞄を時折抱き締めて、何度も手紙を確認して、空を見上げて、笑って。
通勤の人たちが不思議そうに見ていても、ちっとも気付かない。頬が意識がない内に緩んで、大きく深呼吸して、その場で踏み足する。まだ、時間もたっぷりあるのに、勝手に走り出す足。
まだ夏の暑さも残る中、秋風がさわさわと吹いて、気配をほんのり教えてくれる。
芸術の秋。
読書の秋。
スポーツの秋。
食欲の秋。
(恋の秋……なぁ〜んちゃって///)
二年生になった春。
あの時と同じ。クリーニングに出していた制服はちょっとパリッとして。
シャンと背筋が伸びる。
ただ、違うのは。
隣に、家康がいないことだけだった。
明日は、私達は
どんな関係で通学路を歩くんだろう。
どんな気持ちで、肩を並べ……
どんな会話をして、笑い合うのかな?
幸せがいっぱいで、こそばゆくて、ムズムズして、恥ずかしくて、顔を見合わせていっぱい笑えるかな?
手繋いだり、
皆んなに冷やかされたり、
ドキドキしてワクワクして……。
「政宗おはよーっ!」
私は手を振りながら、
歩道のガードレール前に立つ政宗に駆け寄る。
「お?一人か?」
「うん!家康、朝早くに先生の所に行く用事があるみたいで、車で先に」
昨夜、来た家康からのメール。
理由は相変わらず書いてない、用件だけの短文だったけど……『明日、楽しみなんだけど』最後の一行を見た瞬間、心臓が止まりそうだった。
「何、ニヤけてんだ朝から」
「内緒!それより、もうすぐ修学旅行だね!楽しみ〜」
「班は野外活動メンバーだしな」
「秋と言えば京都!食欲の秋だね!」
紅葉見ながら、湯葉食べて京菓子食べて〜舞妓さんと写真撮って〜あとは〜……
政宗は、私の話を聞きながら相槌代わりに、頭をポンポンと叩く。浮かれすぎだ、って注意されても私は後ろ向いて歩いたり、突然走り出したり……
笑顔が一度も消えることがないまま、学校に辿り着いた。