第118章 夏の大三角(19)大会編
「時間の問題かと思ったが。まだ少しはつけ込む隙が、あり……」
「あ!!!」
右側の観客席に見えた人影。
その人影が席を離れ、階段を上っていくのを見て私は、うっかり秀吉先輩が言い終わらない内に、大きな声を上げる。
急いで弓を持ち、
見失わない内に……
「個人戦!頑張って下さい!」
先輩に一礼して、私は走り出す。
試合が終わったら、
三成くんの所に行こうと決めていて……
「三成くん!!!」
控え室に向かうと思い、
先回りして入口近くで、追いついた。
走ったせいで、胴着が肌に吸い付きベタベタした汗が額から流れる。
話さないと!
聞かないと!
でも、何をどう話せばいいのか結局自分でも良く分からなくて……
そう思うのに、言葉が詰まって上手く出てこない。でも兎に角、このまま気まずいのは嫌だった。
私の声に反応して、
三成くんはゆっくりと振り返ると……
「何かご用ですか?」
ニッコリと微笑む。
私はぎゅっと拳を握り、
「……昨日は、いきなり突き飛ばして」
ごめんなさい。
頭を下げて謝った。
後から冷静になって考えたら、もし私が突き飛ばした拍子に、怪我でもしたら大変な事になってたかもしれない。
大事な大会前に……。
床に落とした視線。
すると、そこに紺色の袴が映る。
「私が悪いのです。貴方が謝る必要はありません」
あの様な真似をしてすいませんでした。
三成くんは、
心底申し訳無さそうに謝ってくれて……
「でも…話の途中だったのに…」
「……なら。もう一度、聞いて頂けますか?」
私が即座に頷くと、今じゃなくて、個人戦の大会終了後に聞いて欲しいと言われ……
「集合時間の十分前まで、昨日と同じ場所でお待ちしております。その時に、全てお話します」
全て……。
もしかしてあの手紙の事も!
差出人がやっとわかるかもしれない。
そう思って顔を上げると、三成くんは私の聞きたいことを理解しているみたいに、静かに首を縦に落とす。
「初戦、家康先輩と当たります」
その時に……
貴方の視線を……
三成くんは、言葉を飲み込んで。
そのまま、口を固く閉じた。