第116章 夏の大三角(17)大会編
不自然に倒れたゴミ箱。
遠ざかる足音を聞きながら……
転がった缶を一つ一つ拾い、
三成は曲がり角に向かう。
バス出発まで、残り十分。
それまでに気持ちを落ち着かせたい所だったが……。
「……瞬時。家康先輩かと、思いましたよ」
自販機の前に立つ、人影に声を掛ける。
「それは、残念だったな」
俺で。
政宗は自分が蹴り飛ばしたゴミ箱を起こし元に戻すと、携帯で時間を確認した後、口を開く。
「無性に、喉が渇いてな」
「得意のお節介ですか?」
三成は缶を腕に抱え、コーヒーを悠然と口に運ぶ政宗に珍しく、冷ややかな目を向けた。
すると政宗は肩を竦め、自分を恨むのはお門違いだ、と飲み干した缶をゆらゆら揺らし、残りを確認。
空っぽになった缶を、
ストンとゴミ箱の中に放り込み……
「お前が、あの話を持ち出さなかったら、邪魔するつもりは鼻からねえよ」
政宗は詫びるつもりは一切ないと、話す。
「……私も卑怯な手を使うつもりは、当初はありませんでした」
三成は寧ろ感謝もしていた。
あのまま想いを直球に伝えても、全く脈なしのひまりには届かない。そう踏み、少しでも揺さぶりをかける為に、あの話を持ち出したのだ。
しかし、
「言った側から後悔しました。今なら、家康先輩の気持ちが少しだけですが理解は出来ます」
「俺は、全く理解出来ねえけどな」
女は運命や巡り合わせに、弱い生き物。
政宗は、自分なら手っ取り早く手に入れる為に、手段を選ばず使うが。と、心中で嘲笑う。
「俺とお前のやり方は違う。だから、文句は言わねえが……女は追いかけても逃げる」
追わせるのが一番。
「けどな、家康みたいに追わせすぎると……必ずボロが出る。心に隙がな」
政宗は、ニヤリと笑った。