第114章 夏の大三角(15)大会編
次は……私の番。
深呼吸をして。
的に向かって両足を踏み開く。
胴づくりをして、弓構え。
意識しなくても勝手に震え出す指。
(決めないと…っ!絶対に外せない!)
想いだけが先走り、気持ちが焦る。
背中に流れる汗。
弦をぶつけて腫れた頬。さっきまで、何にも感じなかったのに、思い出したみたいにチリチリと痛みだす。
(外したら…っ。私が外したら……)
いつも見えていた的が、涙も出ていないのにぼんやり霞む。
研ぎ澄ました空気。
張り詰めた緊張感。
尋常じゃないプレッシャー。
こんな気持ちを抱いて、今まで副部長が私達の背中を支えてくれたのかと思うと、自分の甘さが一気に押し寄せてくる。
大前も勿論外せない。
必ず決めて後ろに繋ぐ必要が……
でも、皆んながいてくれる。
伸び伸びと決めれる一射。
でも違う。
落ちは、締めくくりの最後。
振り返っても誰もいない。
恐怖と孤独___
その二言葉が頭にサッと流れ、
真っ白になる。
(早くしないと時間が……っ)
六分間の制限時間。
普段なら余るぐらい十分な時間。
矢をつがえ……
カタカタ震えだす脚。
いつもどんな風に……
どんな気持ちで……
頭が空っぽになって、何もわからない。
的と制限時間を見て、もう一度だけ目の前の凜とした背中を見つめる。
また、そこに責任の重みを私が乗せてしまっている。そう思うだけで、呼吸が苦しくなって……
息がつまる。
残り少ない時間。
覚悟を決め、
すぅ。
息を吸って、
弓矢を持って両拳を持ち上げる打起し。
その位置から弓を押し弦を引いて、引き分け。弓を引き切り、矢を狙った時だった。
「……落ちの背中を支える選手はいない。けど、忘れないで。見ててくれる人がいることを」
(え………)
ーー……見ててあげるから。
離れ……矢を放った瞬間。
澄んだ高い音色が鳴り……
パァッーーンッ……!
的音が会場に響いた。