第112章 『happeningな一日』
レンジの中でふっくら、膨らんだスポンジ。甘い香りに、誘われながら生クリームを作る。
指で掬いペロリと舐めて、味見。
大好きな苺をハート型に切って、可愛くデコレーション。
「完成〜〜!あれ?家康は?」
「部屋に避難して貰ったのよ。お父さんがお風呂行ってる間にね」
また、しつこく聞き出すといけないから。
お母さんはこれ以上、フォローするのが大変みたい。だから、部屋で食べてくるように言われて、お皿を食器棚から取り出す。
「ゆっくり食べてらっしゃい」
「え?でも、明日も朝早いし。また、今朝みたいにバタバタするといけないから」
私はケーキを四人分に切りわけながら、お母さんに喋る。
「あ〜ん!とか、お祝いなんだからしてあげないとダメよ〜」
「ふふっ。何それ?幼馴染でそんなことしないよ、普通?」
「あのね〜年頃の男女がいつまでも、幼馴染ごっこしてても仕方ないでしょ」
「ごっこじゃなくて、本当に幼馴染だよ?」
そう言うと、洗い物をしていたお母さんは手を止めて……
「……キラキラが今度は、眩し過ぎて真っ直ぐ見えなくなるわよ」
え??
それだけ言って、
お母さんはまた洗い物を始めた。
切り分けたケーキの上に後乗せした、
ハート型に切った苺。
特に意味もなくて。
ただ、無意識で……。
(真っ直ぐ見れなくなる……か……)
大会中。
家康の背中ばっかり見てた。
私より断然大きくて……
私とは全然違う、男の人の背中。
「ねぇ、お母さん?夏の大三角って何座を結んでるか知ってる?」
「何よいきなり。悪いけど、星には興味ないわよ」
「……そっか」
軽く息を吐いた後。お父さんとお母さんの分は冷蔵庫に入れて、二人分のケーキをお盆の上に乗せて部屋に運んだ。