第105章 夏の大三角(13)
忘れ物はないか何度も確認して、
外に出ると
「姫〜!花火やろう!」
「後で、でかい花火もやるみたいだよ!」
先に花火を始めていた友達。
今、行く!私は肩に羽織っていたパーカーを落とさないように掴み、皆んなの所に駆け寄った。
受け取った一本の手持ち花火。
蝋燭の火で先端を炙ると、勢い良く七色の光が飛び出す。そしてみるみる間に力を失って、闇に消える。
また、一本。
小さい頃、よく魔法の杖みたいにクルクル回してお母さんに危ない!って怒られた事。つい思い出して、クスクス笑ってると……
コツンッ。
「花火見て笑うとか。ひまりぐらい」
私と同じ黄色のパーカを羽織った家康が、呆れながら隣にしゃがみ込んだ。昔、お母さんに怒られた時のこと……思い出していたの。
ぷぅと口を尖らせて、足元に置いてある花火を二本掴み一本は家康に。
「花火持つと、すぐクルクル回して」
煙の風向きを考えて、私達は火をつけた。視線は花火に向けたまま。口だけを動かす。
「小さい頃は、ちょうど魔法少女に憧れてたんだもん」
「小学の高学年ぐらいまで、回してたし」
うっ。言い返せない。
(そんな事ばっかり覚えてるんだから)
「虹色の光見てると、何か不思議な力が自分にもあるような。そんな、気がしたの」
「で?俺にいきなり花火向けようとしたのは、魔法かけたかったワケ?」
先に消えた私の花火。
家康の花火は、
まだ微かに光を放っている。
なのに、
ずっとこっちを見てたみたいに……
顔を横向けると
すぐに、目が合った。
「あれは……」
魔法を掛けたかった訳じゃない。
キラキラして見えた家康と、花火。
つい見比べようとして……
でもそんな事、言えない。
あの気持ちは数日後のあの日に……
静かに、閉じ込めたから。