第99章 夏の大三角(8)肝試し編
夜も更けた時間帯。
まさに「夏の風物詩」肝試し大会。
最終ステージ。
「……行くよ。恐らく、鬼が待ち伏せしてるから」
家康は親指でパチッとボタンを押し、懐中電灯の明かりを点ける。この手は得意分野。幽霊等、物理的にあり得ない話は一切信じてはいない。しかし、鬼顧問は実在人物。ここからが本番。まさに肝が据わっている所をひまりに証明し、男度を上げたい。
「う、うん。ここまで来たから、頑張る」
まだ、見ていない信長の姿。家康の言う鬼が誰を指しているのを珍しく察知したひまりは、恐怖心に負けないよう自分に言い聞かせた。
そして、
差し出された手に手を乗せると……
「……絶対に守るから」
家康は俗に言う恋人繋ぎをして、キュッと指を絡ませ、一歩前に出る。
(こんな繋ぎかた初めて……)
ひまりは、固く結ばれた手にすこし照れながら足元に視線を落とす。そして家康の一歩後ろを着いて行く。
肝試しの発端は、何百年も昔。
丑三つ時に怖い場所へ行き戻ってくる。そんな肝試しを子供の精神を鍛え上げる目的から始まったとか、なんとか。
ーーーーーー
木札を取りに、再び墓地に戻る道中……
ーーそして……お坊さんが墓地に行くと、クチャリクチャリ……音が聞こえてきて……
「昼間、ゆっちゃんから聞いた怖い話……どうしよう。今、思い出しちゃった」
「あんなの、唯の肝試し前の余興」
「聞いてたの?」
ひまりに尋ねられ、
うっかり口を滑らした家康。
前を向いたまま、
まぁね。
内心動揺しながら、声のトーンは普段通りで素っ気ない。声が大きかった為、たまたま聞こえたと誤魔化した。まさか、練習そっちのけで聞いていたとは知られたくない。