第95章 夏の大三角(4)
顎に何かが触れたと思ったら、そのままくるっと上に向けられて……
「こちらを向いて下さい。………はぁ。心臓の鼓動が、もう止まりません」
視界全部が三成くんの顔を映す。
え!?
大声を出しそうになるぐらいびっくりして、咄嗟に後ろに身を引く。
けど、狭い椅子の上ではそこまで身体を離すことが出来なくて……
またすぐに三成くんの手に捕まった。
「もっと近くで見させて下さい」
顎をさっきより更に高く持ち上げられて、三成くんと私の唇が触れ合うすれすれの所で止まる。
何これ///
胸が息苦しいぐらいドキドキして、もうスクリーンの声も頭に入ってこない。
「映画ではなく、私を見て下さい」
近くから漂う甘いキャラメルの匂い。
それが頭にまで甘い痺れを呼び起こす。
「三成くん……ど、うしたの?」
「……選ぶのはひまり先輩です。映画の結末に感化されないで下さい」
その声に息が詰まりそうになる。
きゅっと締め付け、心を揺らす。
「そして私を……」
まるで、うわ言のようにそう呟いた後。三成くんはスッと私の顎を降ろして、
「映画、終わってしまいましたね」
また、いつもの天使のような笑みを浮かべた。ラストシーン。結局、結末を見れないまま、館内が明るくなって。
ぞろぞろと人がはけて行く。
ただ、甘いキャラメルの匂いだけは残ったまま。
選ぶのは私……?
佐助君にも前に言われたけど……。
あの意味とは違うよね?
暫く考えてみたけど、
三成くんが言った選ぶの意味が、
わからなかった。