第90章 夏の大三角〜開幕〜
終業式___
先生達の長い話が終わり休憩を少し挟んだ後、いよいよ秀吉先輩特別主演『戦国シンデレラ』が開幕した。
私は体育館に並べられたパイプ椅子に座り、隣に座ったゆっちゃんと幕が上るのを見て盛大に拍手を送る。
一番前の特等席はファンクラブ達の子に陣取られ、最初ゆっちゃんはブッーブッー文句言いながらも割と舞台から近い、特別に弓道部専用座席が設けらていることを、知ると……
「先輩〜♡♡♡」
ご機嫌を直した。
劇はいよいよ終盤。
「やはり、其方であったか」
秀吉先輩はガラスの草履をお姫様に履かせながら、抜群の演技力を見せる。
「はい。あの時は術が消えるのを恐れ、宴を抜け出してしまって……」
私は練習相手になった時のことを思い出し、つい手で口を隠しながら笑ってしまう。
「あの夜、美しく着飾った其方に一目で心を奪われた」
このオリジナルシンデレラの名場面。
お殿様が求婚を申し出るシーン。
「お殿様……。でも、あの姿は術の所為です。今は、こんなにも見すぼらしい姿に……」
「何を申しておる。着飾らなくても、その花のような姿……。其方自身の美しさは少しも変わらぬ」
そうそう。それで私に白詰草を差し出してくれて……
ーーお前を無茶苦茶に甘やかして、一生かけて愛でてやる。だから、俺について来い。
って、確か言って。
でも、先輩はそんな台詞は言わず……
「どんな其方でも構わぬ。我と共に生きてくれ」
秀吉先輩はそう言って、お姫様役の子と抱き合った。
(あれ?台詞忘れたのかな?)
折角、凄いドキドキして素敵なシーンになってたのに……。私は少し腑に落ちない気分で、それでも椅子から立ち上がり拍手を沢山送る。
ファンクラブの子達は黄色い声を上げ、最後に先輩が投げキッスを観客席に。
……すると数人の女の子達が吐息を漏らしながら倒れ、先生達に運ばれていく姿を何とも言えない気持ちで私は見ていた。
「ゆっちゃん!良かったね!って……え!!おーい!!ゆっちゃん!?」
「はぁっ……♡」
ここにも一人重症患者さんがいたみたい。