第292章 あなたに何度でも(12)
神聖な場は静寂に包まれ……
世界中で存在しているのが自分達、
二人だけのように思える。
風音も、木の葉の揺れも、辺りの音を全て持ち去られたように静かだった。
聞こえるのは互いの吐息。
「家康……」
「……いっぱい泣かせた。ほんと、ごめん」
「ううん。……私の為だったんでしょう?だから大丈夫だよ」
申し訳なさそうに下がる眉。苦しい思いをしたのは家康も一緒だって、今は分かってるから……。
だからこそ私は笑顔を見せる。
「お誕生日おめでとう」
「そっか……誕生日だっけ今日」
「ふふっ。そうだよ。……プレゼント部屋に置いてきちゃった。一番に渡したかったのにごめんね」
後から必ず……
私はそう言いかけて言葉を飲み込む。
「プレゼントは今から貰うから……一番欲しいもの」
家康は私の襟元を左右に開けると、露わになった胸元に顔を寄せる。
「あっ……何かこんな場所で……良いのかな」
「良いも悪いも……神聖な場だからこそ……ひまりに堂々と触れれる」
首筋に落ちた唇が、今度は額の天女のシルシに落ちる。少しだけ困った顔をする家康。その表情がどうしよもなく胸を締め付けて、私は猫っ毛に指を絡ませた。
(この後……)
どうなるか分からない。
けれど、家康とこうして触れ合っているだけで幸せが込み上がってくる。
上から順番に落ちてゆく口付け。
私が思わず顔を横にそらして、指を咥えると……
やんわりとそれと止められて……
「んっ……ぁあっ……」
「聞かせて。……ずっと聞きたかった。その声が……」
触れられた部分から溶けてゆくように……
私の肌は熱くなってゆく。