第66章 風待ち月(15)
『家康様side』
酷く降りしきる大雨。
勢いを盛り返したように、
激しく地面を叩きつける。
(身体が冷たい……)
山間部は、只でさえ気温が低い。
ぬかるんだ道は、泥々。
足が沈み行く手を阻む。
(くそっ……)
一時間以上、雨を浴びていたひまりの体温は低く、背中から小刻みに身体が震えているのが伝わった。
恐らくいっ時のにわか雨。
どこか凌ぐ場所がないか、頼りない懐中電灯で、辺りを照らす。
すると少し降りた所に山小屋を見つけ、俺は意識を失ったひまりを背負いなおし、足を踏ん張りそこまで移動する。
古びた扉を蹴り開け、中に入るとゆっくりひまりを床の上に寝かせた。
避難用の無人小屋は、壁と床があるだけ。雨露をしのげるのは有難いが、設備は整ってはいない。
電気も点かないし。
俺は棚からオンボロの毛布だけ発見する。
「ひまり。ごめん……」
後で、いくらでも怒っていいから。
俺はひまりの身体を起こし、雨水を吸い込んだ体操服に手を掛け……脱がしていく。
(こんなに冷えて……)
触れる肌全てに、ぬくもりがない。
俺はなるべく見ないように注意して、下着姿にさせるとその身体に毛布を巻き付けた。
自分も上着だけ脱ぎ、吸い込んだ雨を絞る。
棚を再び物色し応急箱を見つけると、包帯を取り出し手首を止血。
木の枝でザックリやったその部分は血管から近く、みるみる包帯を赤く染め上げた。