第289章 あなたに何度でも(9)
それを見た瞬間。
天女は泉の中に涙の雫を落とす。
「ご、めんなさい……私のせいで……」
(そうだ……この後……私は……)
シャランッ。
鈴のついた剣。
「例えこの罪が永遠に続いても……私は何度でも貴方に……その印として……」
羽衣は儚く揺らめき、天女は舞い踊る。ひまりはその美しい舞に呼吸を忘れ……右手の拳をぎゅっと握った。
「これで貴方に……私は永遠の愛を誓います」
シャランッ。
シャランッ。
シャ……ラ……ンッ……。
「……ん…………」
「…………気がついた?」
「あなたは……?」
「…………術が効いたみたいだね……」
「術?……どうし……て……私は泣いているの……」
涙を流しながら夢から目覚めたひまり。信康はその涙を拭いながら抱きしめた。
ごめん、ごめん。
そう繰り返しては…………
「どうして……私はここに居るの……?何?何にも思い出せない……」
「ほんと……ごめんっ……儀式後にはきっと思い出すだろうから」
頭を振ろうとするひまりを止め、自分の目にも涙を溜めた。
ーー姫の記憶を一時的に消す術がかけてある。
ーーこれを姫に飲ませて……儀式に同意させるんだ。
ーーそんな事!出来るわけ!
ーー……神が残した試練。その為に花を鏡の中で育てたんだ。
これは天邪鬼な神が残した試練。
「家康様……抱いて下さい……」
解かれた帯。
「これに着替えて……」
用意された白装束。
記憶を失った二人。
満月の夜。
お互い契りを交わすのは……。