第289章 あなたに何度でも(9)
天界の一つ下の世界に、
美しくて心の優しい好奇心旺盛な、天女(てんにょ)がいた。彼女は天界に一番近い姫君で、天の者に沢山愛され、幸せな日々を送る……そして彼女はある日ふと人間界に興味を持ってしまった。
彼女は月が綺麗な夜だけ下界に繋がる天の道をこっそり通ったのだ。
月夜の綺麗な晩。
一筋の光の道ができる。
そして今宵も地上に舞い降りた天女のひまり。凍てつくような寒さの中、白い息を吐き、想い人である家康の御殿にある離れへと向かう。
家康と初めて出会ったのは、
木の上に舞い降りた時だった。
突然、織田信長に……
ーーまるで、天女(てんにょ)だな……なら、今宵から貴様を天女(あまね)と呼ぶことにする。
まだ天女には、名前がなかった。
ーーなっ!!……こんな得体の知れない女、無理です。
夜の相手を最初は拒んでいた家康だったが、次第に二人は心を溶かし合い、惹かれてゆく。
しかし、それは禁断の恋。
「永遠の剣……ですか……?」
それを分かっていながらも天女ひまりはまた、会いにやってくる。
「俺は……それを探している……」
真っ暗な部屋の中。
オレンジ色の光が揺らめく蝋燭。
戦国時代の徳川家康と夜だけ何故か元服寸前の時期に入れ替わってしまっていた現代の家康は、薄れてゆく記憶を頼りに藁にも捕まるような気持ちで探している永遠の剣について尋ねた。
「………………」
黙り込んだ天女のひまり。
何か知っているのは明らかだった。
「永遠の剣は……天女……が……満月の日に神に身を捧げる為の儀式に必要な物……だと……言われています」
沈黙に耐えかねてとうとう口開く。