第285章 あなたに何度でも(5)
♩♩♬……
静かに奏でるメロディー。
襖を開け、月を見上げながら俺はオルゴールを聴いていた。
(ひまり……)
裏に刻んだ名前。
目を閉じれば浮かんでくる最後に見たひまりの泣き顔。後から神木に色々と聞いて混乱しているかもしれない。
(早く会いたい……)
ずっと自分から避けてた癖に、時を越えて離れていると思うと余計に会いたくなる。
「はぁーっ……」
いつもより長めにため息を吐いた時だった。
「家康様?それは何ですか?」
庭に現れた姿。
天女のひまり。
「…………大事な物」
俺はそう言うと蓋を閉じた。
このオルゴールは二つで一つのメロディーを奏でる……北海道旅行で作ったお揃いの物。俺の宝物。
「綺麗な音……異国の物ですか?初めて見ました」
異国……確かにそうかも。未来なんてこの時代には想像もできない世界。でも俺からしたらこっちのが異国。
朝起きれば運ばれてくる朝餉。
何故か外出はなるべく控えるように女中らしき女に言われ、状況が掴めない以上、下手に動くことも出来ない。タイムスリップしてきてからまだ一歩も外に出ていない。
分かったことと言えば、こっちの世界にいるであろう徳川家康がいないこと。というか俺の存在自体が徳川家康になっている。
(今度、織田信長の安土城に行くらしいし……)
何でも稽古をつけるとかなんとか。
上手く誤魔化せれば良いけど……
「見せて頂いても構いませんか?」
向けられたふわりとした笑顔。
「別に良いけど……」
ひまりと瓜二つの笑顔を見たら、断れない。俺はオルゴールを差し出す。
すると、その時に少し手に触れてしまった。
「すいませんっ///」
照れ臭そうにパッと離す仕草までそっくりで……思わず頬に向かって伸びかけた腕。