第284章 あなたに何度でも(4)
そして昼休み___
冷たい風が容赦なく足元に吹き付ける。真冬の今は芝生も枯れかかっていて、裏庭には花も一輪も咲いてない。それが何だか切なさと寂しさを呼び起こす。
私はブレザーの前を搔き合せ、
石碑に近づく。
(ほんと……二つに割れてる……)
『約束の地へ』
真ん中で大きく亀裂の入った石碑。
私はコツンとおでこを当てて……
ここでの計り知れない思い出。
それを振り返る……
小さい頃、交わした約束。
春、ここでしたファーストキス。
夏休み前、ヘアピンをプレゼントして貰って、秋に想いを告げた。
お昼休みに二人で過ごして、
書物を読んだりして……
(そう言えば書物……失くしたままだ)
探さないと……
そう思った時。
さぁっー……
「ひまり。ここにいたんだね」
木枯らしが信康くんの声を私の耳に届ける。
「信康くん……」
「これ……返しそびれてた」
振り返って渡されたのは今まさに探そうとしていた書物で、私は驚いて信康くんの顔を見る。
「え……どうしてこれを……」
「……ごめん。前に翠玉と天鏡に忍び込ませたんだ。……三つの神器について何か書いてあるかと思って」
大事な物なのに本当にごめんって、信康くんは眉尻を下げてもう一度謝ると、これは佐助くんの分だって渡された。
「そっか。……信康くんが……」
「本当にごめん。……最低なことをした。二冊見比べたかったんだ」
その表情からは反省の色が伺える。
本来なら物を取るのは絶対にいけないこと。でも、こうして返してくれて……何度も謝られたら……私に言えるのは一つ。
「今度必要な時は、ちゃんと貸してって言ってね。佐助くんには私から話しておくから」
「……怒らないの?」
「怒って欲しいの?」
「そういう訳じゃないけど……怒られる覚悟はしてきた」
「他にもまだ隠し事してたら、その時は本気で怒るよ?」
「隠し事…………実は……」
信康くんが何かをぽそりと言いかけた時だった。昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
「いけないっ!次、移動教室だった!信康くん急ごう!」
走り出す私。
この時、信康くんが言いかけた事を……
後から知ることになる。