第281章 あなたに何度でも(1)
昔の家康とそっくりな顔をした二人。
私は懐かしい姿を思い出して、思わずクスリと笑うと、信康くんが少し元気出たみたいだねって、隣で呟く。
「信康くんは前世の記憶があるんだよね……?」
「断片的にね。…………だからこそ、徳川とひまりには……」
「信康!その話は禁じただろう?」
「前世の話をすれば、罰せられる」
二人に詰め寄られた信康くんは、顔の前で両手をパーにして「はいはい」って言うと、私にごめんって謝った。私は首をふるふる横に振って、もう一度、鏡の中に目を向ける。
「なら、儀式って一体どんな事をするの?」
「それは……また、今度話すよ」
何故か少し気まずそうに、
視線を逸らした信康くん。
少し気にはなったけど……
(これが私の心……)
真っ赤に咲いた花。
(話しかけてみようかな…………)
小さい頃、お母さんが言っていた。
お花が元気に育つには、お日様もお水もそして何より愛情が必要だって。
(お父さんとお母さんは、どんな思いで私を大切に育ててくれたんだろう…………)
毎朝、コーヒーを飲みながら、新聞を読んで「おはよう」って声をかけてくれるお父さん。キッチンに立って、大好きなオムレツを作ってくれるお母さん。
今までみたいに接することが出来るか心配で……また、涙が滲んできて慌てて拭う。
信康くんに聞きたいことは沢山あった。
儀式も前世も家康のことも私のことも。
(でも……今はこれ以上は……)
鏡越しで目が合う。
「ん?」って顔をした信康くん。私はまたふるふると首を横に振ると、胸に手を当てた。
(今は家康のことだけ考えよう……)
ねぇ、家康。
何でも一人で決めちゃやだよ。
必ず戻るって約束……
絶対に忘れたりしないでね。
家康が戻る前に必ず、必ず……
花を元気にして見せるから。
毎日、二人の思い出を語りかけながら……待ってるから。
必ず……帰ってきて。