第9章 動き出す「運命」姫主side
優しく起こしてなんかあげないんだから!
私は静かに鞄を足元に置き、忍び足でそっと近づく。
時が動きだしたみたいに
再び風が戻り……
サラサラと音を立てて、
私の足音を消してくれる。
スカートがひらひら揺れ……
石碑と家康の回りを囲むように咲いていた花も揺れだし、一斉に同じ方向に靡いた。
顔に乗っていた本。
落とさない様に気をつけて上に持ち上げ、私はしゃがみ込む。
家康の長い睫毛も風に揺れ……
(ふふっ。ぐっすりだし♪)
小さな寝息と無防備な寝顔。
普段の意地悪な家康からは、想像できないぐらい可愛い。
でも……
緩めたネクタイ。
二、三個外したシャツのボタン。
チラッと覗く胸板と捲し上げた腕からは、細身でもちゃんと締まった筋肉がついていて……
私とは全然違う、男の子の身体。
ドキドキと早まる鼓動。
火照り出す頬。
小さい頃からずっと一緒居るのに、今更……
「………格好良いなんて」
思ってても、言えないよね。
思わず口から飛び出していた。
(って、何言って……///)
そんな事より起こさないと!
私は家康の顔の前に両手を近づけ、
思いっきり叩いて……
起こそうと、
したはずなのに……
「……………かわい」
突然、家康の口が動いて……
グイッ……
え………。
腰元に腕が回る。
引き寄せられ、傾く身体。
掴まれた後頭部。
そして……
ふにっ。
唇にあたる柔らかい感触。
……………。
思考回路が停止して。
「……………あ、れひまり」
……….………なっ///
「〜〜〜〜〜〜っ///」
私はすごい速さで身体を離す。
震える指先で唇を抑えて……
今のキス……
キス……した。
家康と!!
「…………ワサビと間違えた」
ボソッとそう言って、テンパる私を他所にむくりと起き上がり、呑気に欠伸をする家康。
ワサビってあの?
家康が飼ってる犬の?
鹿に似た?あの、ワサビ?