第279章 天邪鬼の愛〜真紅〜(21)
新月の前の晩。
「ひまりを頼む」
俺は信康にそう告げて、電話を切った。いよいよ明日……本当にひまりが天女になるなんて未だに信じがたい話。
ベットに倒れ込む。
ひまりの香りが消えたシーツ。
頭の上に腕を置いて、何かを考えようとした時だ。
「大分、限界にきてるみたいだね」
佐助が神出鬼没で現れた。
「……普通に入ってこられないの?」
ベットから起き上がり、
俺はガシガシと髪をかく。
「何を隠しているのか教えて頂けませんか」
「…………」
「ワームホールの力は強まっている。恐らく、このままでは間違いなく明日、出現します」
「……距離をおいても無駄だったって事だよ」
距離を置くだけじゃ何も状況は変わらなかった。
(だからこそ明日……)
佐助は口を閉ざした俺に近づくて、無表情から真剣な顔つきに変えて……
「まさか別れを告げる気ですか?」
そう尋ねて来る。
ズキッと痛む胸。
「明日、話す」
俺はそれっきり口を閉ざすとふて寝をするように背中を向け、ベットの上で目を閉じる。
いつのまにか背後から消えていた気配。
(帰ったか……)
俺は起き上がり、机に座ると便箋を取り出して、手紙を綴る。そして書き終わると引き出しからオルゴールを取り出し、学校の鞄の中にしまった。