第279章 天邪鬼の愛〜真紅〜(21)
木枯らしの音に混じりながら、
届いた涙声。
俺は石碑の後ろに身を潜め、
口元を手で覆った。
「い、えやすっ……家康っ……」
心臓がえぐられるぐらい苦しくて、針を飲むような呵責の悲しみが押し寄せる。決心が鈍りそうになって、唇を痛みを感じなくなるぐらい強く噛んだ。
(ほんと、ごめんっ……)
俺が抱いたせいで……
俺が好きになったせいで……
口に出さずに謝ってばっかで、抱き締めてもあげらんない。石碑の亀裂が俺と関係してるって信康に聞いて、様子を見にきたらまさか、ひまりが来るなんて…………ほんと予想外。
すぐ向こうにひまりがいる。
そう思うだけで動きそうになる腕を必死に捕まえて……
カチカチカチカチ。
時が経つのを待った。
石碑に入った大きな亀裂。
もう、中を覗かなくても石が見えそうなぐらいヒビが入り、中から翡翠色の石が光る。
ーー約束の玉は、戦国姫が身につけていた石。そして石碑を建てたのは、かつて戦国姫を愛した戦国武将徳川家康だ。
(新月を迎えるまで……)
どうか耐えてくれ。
俺はぎゅっとブレザーの胸元にあるエンブレムを掴むと、夕日に染まってゆく雪景色をぼんやりと眺めていた。