第278章 天邪鬼の愛〜真紅〜(20)
洗面台の前。
私は毎日、ある場所に触れた。
家康があの夜に無数につけたキスマーク。でもあれから二週間近く経っていて、痕が残っているのはブラウスでぎりぎり見えないぐらいの位置にある首筋だけになってしまっていた。
(家康……今日は学校に来るかな……)
目頭が自然と熱くなるのを感じて、私は蛇口のコックを捻ると、冷たい水で顔を洗う。
そして……
「明智先生……」
「……乗れ」
昨日は織田先生、今朝は明智先生が迎えにきてくれる。あの時と同じ。天音ちゃんの時に政宗が毎日迎えにきてくれたみたいに、皆んなが私のことを気にかけてくれているのが分かって……
「私、全然成長していませんね」
「…………そんなことはない。見た目だけで判断するな」
(見た目だけで……かぁ……)
始業式から三日経った日だった。
家康が学校に来たのは……朝のホームルームギリギリにやってきて、皆んなに注目される中、席に着くと、廊下側にいる私には背中を見せ、ぼんやりと凍てついた窓を見ていた。
チャイムが鳴ると、真っ先に私は立ち上がる。
「い、家康っ!」
声掛ける勇気がでないかと思った。でも、顔を見れたのがあの京都旅行以来で、戸惑いがちだったけど必死に声を振り絞った。でも……
ガタンッ。
「……日直だから」
家康は席を立つと、スタスタ歩いて扉の向こうに消える。
「ひまり……」
「だ、大丈夫だから!ゆっちゃん!そう言えば昨日のドラマ見た?すっごく面白くてねっ……」
ゆっちゃんが心配そうに私の名前を呼ぶのが聞こえて、ただ、何もすることがなくて流れるように見ていたテレビの話題を持ちかける。