第275章 天邪鬼の愛〜真紅〜(17)
朝、起きた時に感じるはずだったぬくもり。でも、家康はいなくて……このぬくもりは先生のものだって、違うって。
そう思った瞬間に、小さい子みたいに声を上げて泣き出す。
「な、んで……っあぁっ……!」
お正月に初詣行く約束をした。
水族館に行く約束も、宿題を一緒にする約束も、そして今日、赤い橋に行く約束をした。
『暫く会えない』
文字じゃなくて、
そう言う家康の声が耳に届く。
嫌われたの?
昨日、あんなに熱く抱いたのは?
何で?何で?
泣き続けて、どれぐらい経っただろう。
織田先生が泣き止むまで、ずっと抱きしめてくれていて、泣き止んでからも側にいてくれた。ただ、先生は何も言わない。
家康のことについては。
「…………少しは落ち着いたか」
「……はい」
「……少し寄り道をする」
「……はい」
携帯を握りしめた私は静かに返事をすると、腕時計の文字盤に触れる。
帰り道。
先生はある場所に私を連れて行った。
着いた場所、そこは本能寺跡。
「……戦国姫はここでワームホールに吸い込まれたと書物には記されていた」
書物……。
そう言えば無くしたまま。
ずっと見ていない。
「何か感じないか?」
「………何も」
先生がどうしてそう尋ねたのかは分からなかったけど。今の私には何かを考える力はなくて抜け殻のように首を振るので精一杯だった。
家康に会いたい。
ちゃんと話を聞きたい。
一方的に『暫く会えない』と言われて……
「ねぇっ!ちゃんと説明してっ!家康っ!家康っ!」
「………………」
帰ってすぐに向かった家康の家。
扉の向こうにいる家康に向かって、私は叫び続けた。けれど、いくら待っても返事はなくて……
それっきり、一度も連絡もつかないまま。後ろ姿さえ見れないまま。
短い冬休みが終わっていた。