第273章 天邪鬼の愛〜真紅〜(15)※R18
刻々一刻と近づく時間。
ホテルのスイートルームでは、仲良く夕食をとる二人を一面ガラスは映していた。
「美味しい〜」
「……だね」
家康はひまりに気づかれないように、腕時計の文字盤に触れる。
指先でそっと。
そっと優しく。
カチカチカチカチ……
そして夜の闇に紛れて、集まった四人。
「観測が出来ました」
「家康が聞いた話は本当だったか……ならば、間違いなく……」
「……本当にそんな事が」
「苦渋の決断……か…………」
秀吉は信じられないというように首を動かせば、光秀は真剣みを帯びた声で呟く。
闇に浮かんだ月。
明日には満月になるであろう月は、闇夜でゆらめき儚くも底冷えする空気を感じない程、くっきりと浮かび、切なげな綺麗さを持っていた。
その頃、花ノ天女神社では祠の前で信康が鏡を見つめる。
「…………良いのかよ」
「信康……」
「全部は話していない。ただ、決めるのは徳川だ。……花は恐らく明日、満開に……」
「「…………」」
翠玉と天鏡は、無言のまま哀愁漂う信康の背中に視線を向け、やり場のない感情を閉じ込めるようにぎゅっと拳を握りしめた。