第269章 天邪鬼の愛〜真紅〜(11)家康様side
ずっと考えてた。どうやって渡すか。
柄にもなく渡す場面を想像して、一人で照れくさがって……
(綺麗だ……)
何日振りかに見たひまりの笑顔。想像より遥かに可愛くて、背後に広がる光景よりも綺麗だった。
何で神木と一緒に居たのか聞こうとしたら、渡された小さな紙袋。
「メリークリスマス」
その笑顔に負けて、俺は聞けずに中身を取り出す。俺があげたジュエリーボックスより一回り大きい物。緑色のベルベット素材の箱を開ければ中に入って居たのは、三日月がモチーフになった腕時計。
「…………これ」
「私もバイトしてたから。これをプレゼントしたくて」
バイトしていたのは、あの祝日の日に小春川から聞いて知っていた。ただ、まさか自分にプレゼントする為だとは思ってもみなかった。嬉しさと愛おしさが同時に混み上がり、言葉にするのが勿体無いぐらい。
「ありがとう。……大事にする」
「手編みは毎年プレゼントしてたから、恋人同士になった今年は、何か特別な物をプレゼントしたかったの」
今、俺が巻いているマフラーは去年貰った物。早速今はめている腕時計を取ると付け替える。すると、ひまりは何故かまた泣きそうな顔をして……
「ずっと寂しかった。……すれ違ってばかりいたね」
俺の胸に擦り寄るひまりは全身で寂しかったと伝えてくる。それは俺も同じ。抱きしめた腕でそれを伝える。
好きだからこそこじれた。
好きだからこそ言えない事もあった。
約束を忘れてゆく記憶。
痛む左目。
その二つが関係しているのは日に日にわかってゆく。
「家康……」
「ひまり……」
好きだからこそ……
こうして触れ合えた時の喜びは何倍にも膨れ上がる。