第268章 天邪鬼の愛〜真紅〜(10)
動き出したゴンドラ。
ゴトン、ゴトン……
全身に感じたちょっとした浮遊感。
背中に当たるぬくもりがあったかくて……
「ひまり……」
私を呼ぶ声があんまりにも切ないから……
「……くっ…………」
ぽたりと落ちた涙が雪の結晶みたいに煌めき、目の前のイルミネーションが霞んで見えて、ぼやぼやとした光が幾つも広がった。
「…………ごめん」
何のごめん?
女の人と会ってたから?
嘘を吐いたから?
二回も約束を破ったから?
それとも……
「…………傷つけてごめん」
「……ひ、っく……」
頭上に降ってきた雪。
ううん。家康の汗。
ぎゅって苦しぐらい抱きしめられて、声が何にも出なくなる。
怒りたい事がいっぱいあるのに。
聞きたい事がいっぱいあるのに。
言いたい事がいっぱいあるのに。
「……ほんとにごめん」
ずるいよ?
そんなのずるい……。
握りしめた紙袋。
その上に涙が幾数も零れ落ちてゆく。
「……嘘吐いてごめん」
「……っ、く……」
「……泣かせてごめん」
「ふぇ、っ……」
「約束守れなくてごめん」
「あぁぁっ…………」
壊れるぐらい強く抱きしめられて、感情が堰切って漏れ出すと、声を上げて泣き出す私。
まるで小さい子みたいに。じーんと鼻の奥が痺れるぐらい、熱い涙を零す。
「ごめん。……ほんとにごめん」
しゃがみ込んで泣きじゃくりたいのに。
家康の腕は私を離してくれない。