第265章 天邪鬼の愛〜真紅〜(7)
待ち合わせから十五分が過ぎた頃。
ひまりは携帯を取り出す。
「お客様の都合で出られません……」
流れたガイダンス。
その場にしゃがみ込んで携帯と紙袋を膝の上で抱き締めると、蹲った。鼻は真っ赤になり、肌は雪を吸い込んで冷たい。
(待ってるって……嘘だったの……)
家康の今の状況を知らないひまりは、また嘘をつかれたと……
また約束を破られたと……
悲しみの中に閉じこもる。
(もしかしてまたあの女の人と……)
何か事情があると信じていた微かな望みが、目頭に浮かんだ涙と共に霞んだ時だった。
「ひまり。どうしたの?こんな所で……」
近づいてきた足音。
それは待ちに待った家康のものでなく……
「のぶや、す……くん……」
身を隠して様子を伺い、声を掛けるタイミングを見計らっていた信康だった。
「風邪ひくよ。こんな所で蹲ってたら……」
信康は自分の巻いていたマフラーを取ると、ゆっくりと目元を擦り、立ち上がったひまりの首元に巻く。
その優しさは今のひまりにとっては酷だった。
「徳川とでも待ち合わせしてるとか?」
追い討ちをかけるように尋ねられ、とうとう耐えていた涙が溢れ出す。
「ご……め、んね。これは……そ、のっ……」
良い言い訳が思いつかず、ひまりはぽろぽろと泣き出した。
「とりあえず、何処か温かい場所にでも行こう」
そう優しく声をかけた信康は、ひまりの持っていた荷物を持つと、駅前に向かって歩き出した。
しかし、優しい声とは裏腹に……
(徳川のヤツ。一体どうしたんだ……)
当初の予定とは違う展開に、険しい表情を浮かべたのだ。