第260章 天邪鬼の愛〜真紅〜(2)
ひまり達が入学してきた春から、新月になると必ず現れ、三つの神器を探して欲しいとうわ言のように言い残しては消える女。
しかし、秋頃からは声も姿も現れる度にはっきりし、聞き取れるようにまでなった。
「しかし、どうして三つの神器が必要なのでしょう。何かの儀式でも……」
ズラリと並んだ資料棚から手を離し、佐助は眼鏡をかけ直す。
「探せと言うだけで、その先は話さんからな。それにだ。例え永遠の剣が見つかったとして、揃えようとすれば石碑を壊さねばならん。理由も必要性も分からぬ今では、どうする事も出来ぬ」
光秀も花ノ天女神社について、詳しく調べている最中。秀吉には信康に張り付かせ様子を随時報告するように告げてある。現時点では調べる以外に他に方法はない。
「あと、気になるのは家康の左目だ」
「それとなく本人に聞いてみましょうか?」
「あいつが素直に話すとは思えぬからな。その件に関しては俺が様子を見る」
俺は学園長室の椅子に腰掛け、顎に手を置く。佐助の調べによるとワームホールの存在が再び観測した訳でもないと言う。
異変の理由が何処かにある筈だ。
秋といえば、ひまりと家康が思いを通わせた頃。その時期に信康が転校し、書物が忽然と消えた。しかし、佐助が目撃した情報によれば、ひまりの方の書物は信康が持っているとのこと。
ーーひまりは……私達の……
父親から聞いた話を思い出し、
チクリと微かに痛みを感じた胸。
ーー二十歳になった時に、あの子に話すつもりです。
悲痛な表情で母親が取り出したのは、預かった小さな守り。ひまりと両親の気持ちを考えれば、俺からそれ以上の言葉を奪い、詮索する事をやめさせた。