第260章 天邪鬼の愛〜真紅〜(2)
期末テスト前。
部活動がない放課後、俺は雑用を終え学園長室へ向かう。普通であれば職員としてノックする所だが、中にいるのがあいつだと思うとその必要はない。まぁ、そうでなくとも俺にはその必要はない。
「……来ていたのか」
「はい。父が残した資料に何か手掛かりはないかと」
「……俺に許可なく入れるのは、お前ぐらいだな」
前学園長である父親の親友の息子であれば仕方がないか、とも思ったがそれはそれでこれとは別件。
「これからは一言ぐらい声を掛けろ。誰かに見つかれば厄介だからな。それに今は俺が学園長だ」
「以後、気をつけます」
俺に書物を託し、石碑の研究していた佐助の父親と俺の父親が友人同士だったことを知ったのは秋。俺が自分の父親の見舞いに行った時に聞かされた。
(どうりで自由に出入りできた訳だ)
表向きはまだ学園長の名前は俺の父親になっているが、病に伏せてからは俺がその役目を背負っている。
この事を知っているのは学園内では光秀だけだったが、最近になって秀吉には教えた。
「……何か分かったか?」
「いえ。永遠の剣については何も」
「……そうか。やはり、研究していたのは石碑だけだったようだな」
「そのようです。しかし、約束の玉は間違いなく石碑に埋まっていると思います」
新月に現れる女。
ーー石碑に……翡翠石が三つ……お願い。睦月の終わりまでに……永遠の剣を……
先月初めてはっきりとそう口にした。
その声があまりにもひまりに似ており……
ーー……先月の新月の晩。お前は何をしていた?
ーー今度の新月、俺の部屋に来い。
あのような事を俺は口走った。