第259章 天邪鬼の愛〜真紅〜(1)
ふと視界に入ったのは毎日通る通学路。
受け答えをしている内にいつの間にか、家の近所まで来ていた。
「ありがとうございました」
「……ひまり」
「はい?」
車を降りてくるりと回れば、先生の真剣な表情がそこにあった。
「今度の新月、俺の部屋に来い」
「え??先生のお家にですか?」
「…………冗談だ。期末の勉強を見てやろうと思ったが、家康が煩いだろうからな」
先生はフッと笑ってハンドルを握ると手を挙げて車のエンジンを吹かす。二、三歩反射的に後ろに下がると再び走り出す赤い高級車。
(先生どうしたのかな?)
いつもと変わらないと言えば変わらない。けれど新月の話をする時はどこか違った。
(新月って確か付き合って三ヶ月の日だよね??)
私は玄関先で夜空を見上げる。真っ暗な空に浮かんだ数々の星屑と三日月。何となくじっーと見ていると背後から足音が聞こえてきて……
「何をしているんだ。風邪引くぞ」
「お父さん!おかえりなさい!」
私は駆け寄った。
「織田先生にバイトの帰りに会って、送って貰ったんだ」
「……そうか。織田先生に。……良かったな」
コクリと頷いた私。私はお父さんの腕に自分の腕を絡ませると、今日バイトであった話をしながら家の中に入る。
出迎えてくれるお母さん。
夕飯の良い香り。
「クリスマスプレゼント。何が良いんだ?」
「ん〜と!新しいお洋服が良いなぁ〜」
「はいはい。家康くんとのデート用ね」
「な、何だって!ひまり!縫いぐるみはどうだ!?でっかいの買ってやるぞっ!」
「ふふっ!」
そして、夜には家康からの一件のおやすみなさいメール。
何気ない日常。
幸せな日常。
何の不安もなかった。
でもその日の夜。
「確かめに行こうよ!ひまりっ!」
掛かってきたのは、ゆっちゃんからの電話。私は震える手で通話ボタンを切った。