第248章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(35)時を繫ぐルージュ編
記念撮影。
アルバムの1ページが増えてくかのように、続くフラッシュの嵐。
今度、カップケーキ作ってくるね。
ひまりは目の前ではにかむ。
(これも約束に……)
かと思ったけど……痛みのない目。
それが違うと返事。
フォークでケーキを一口大に掬って、今度は無邪気に口をあーん、と開け俺の口元にそれを近づけてくる。
ちょっと大っきいし。
そう突っ込みそうになる前に、フォークにかぶりつき一口でパクリと食べた。口の中で消えた途端「甘い」って食べた感想を短く告げ、口端に付いた生クリームを親指で綺麗に拭き取ろうとした時。
「だってケーキだもん」と、ひまりはクスリと笑い声と一緒に呟いたかと思えば……
ペロッ。
「……………ほんと、甘いねっ///」
俺の口端に付いた生クリームの部分をペロッと舐めた。普段ならしない。普段なら自分からは絶対しない。散々、こっちが要求して、やっとするかしないか。
そんな、ひまりの大胆な行動に思考が壊れたみたいに停止。
「………なっ//////」
やっと動いて口元抑えるのと、ひまりがパッと視線を逸らすのが同時。
「お返しっ///意地悪される前にっ」
「…………お返しって。……まだ意地悪してないんだけど」
結局、一番甘いのはひまり。
ほんと、俺の性格。分かってんの分かってないのか。そんな事したら、後で何倍にもなって返ってくるだけ。
「つまり意地悪してって事だよね?」
「へっ///……ち、ちがうよっ!」
「期待には添わないと」
ひまりの柔らかい頬の感触を指先に刻み、体のラインを確かめるように滑らせて、唇同士の距離をギリギリで止める。
(俺からはしてあげない)
ぎゅーと目を瞑り二、三秒して、
あれ?そろーっと、開いた瞳。
それから、二、三秒後に届いた唇の感触。
アルバムに写真が増えるように、
俺の中で増え続けるひまりの姿。
「ふっ。シャッターチャンス貰うよ」
パシャ。
この瞬間を残せる『写真』
記憶に残らなくなった『約束』
この時の俺の想い、ひまり想いは……
絶対に胸の中に残す。
「……ずるい」
「……狡いよ、俺は」
約束を忘れたって言えないから。