第246章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(33)時が繫がるルージュ編
眉を真ん中に寄せて、
怒りたいのか笑いたいのか、それとも泣きたいのか……もう、自分でも頭の中で疑問符を乱舞しながら、実際の感情より大袈裟な顔をして……
「だから。もし今、同じ間違いされたら前よりいっぱい傷つく!」
それは、しっかり伝える。
前よりもっと、もっと家康の事が好きになった今は……もし、同じような出来事があったらきっと想像も出来ないぐらい胸が張り裂けてしまう。
だから信康くんの話を聞いて、
私は謝らなきゃって。
(大好きになれば、成る程……傷ついた時の痛みは大きくなる)
でもその分、大好きが今までの傷を溶かして一部にしてくれる。でも決してそれが消えるわけじゃない。ただ、心に入ったヒビが無くなって、また一つの心になる。
……そんな風に思えた。
だから……だから……
そう言いながら、
私の顔は泣き出しそうに今度は歪む。
「間違えても良いなんて言わないで。さっき、家康が教えてくれたのと同じだよ」
間違うこともあるけど、間違えちゃいけない事も沢山ある。もし、もし、さっきの疼きが治らなくて、もし、もし信康くんと『何か』あっていたら……それでも間違えても良いって言える?
そう尋ねた途端、
家康が一瞬だけ浮かない顔に。
「……無理。……絶対、無理」
「私だって同じだよ。もう、絶対無理だからね!」
「……わかった。言わない」
自分は良くて、相手はダメ。その逆も勿論よくない。良いことでも悪いことでも。自分が間違えたから、相手も間違えても良い……それは許し合う意味では良いのかもしれない……でも事と次第では、そんな優しさは悲しすぎる。
(二人で一緒に決めて、見つけていきたい。……色々な事を……)
私は家康の背中に回していた腕を片方だけ動かして前に持ってくると、人差し指をくの字に曲げて……形の良い唇の端っこに触れる。
「この傷が治る頃には、私の心もまたきっと溶けるから……」
家康はすぐ見えない心を気にして、
大事にしてくれるけど……
「私にとっては、見える傷も心配なんだよ」
私だって家康が大事だから。