第244章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(31)時が繋がるルージュ編※R18
特徴のないビジネスライクな、
鉄の扉。
それを開いた途端、明るい光が顔を照らし眩しそうに俺は目を細め……
冷たいものが頬にポツリとあたり、顔を上げる。視界に映った空には千切れ雲がまとまり、少しだけ曇天。
太陽はまだ傾いていない。
まさに天気雨。
狐の嫁入りだった。
編集長が話している間に、静かにスタジオから出た俺。通路の突き当たりまで歩き、エレベーターの前を通り過ぎ、昼間なのに薄暗さを感じる非常口の扉を開いて非常階段の踊り場に立つ。
「翠鏡、天鏡、居るんだろ?」
雨で衣装を濡らすのはマズイと考え、頼りないがわずかに頭上には屋根があり、扉を閉めると建物の角に凭れる。
すると、
「「いるよ」」
ひょっこり屋根の上から逆さ向きの顔が二つ現れた。目立つから降りてこいと言えば、日中は術をかけているから見えないと……「「なー」」と、顔を見合わせながら声を揃えたかと思えば、また俺の方に頭を向けた。
昼間は陽のように明るく見える髪が、ふわふわと重力に逆らえずに揺れるのを目で追いながら、俺は『狐珠』について確認。
「念の為、もう一回確認するけど身体には本当に害はないんだよね?」
「ないない。術が形になって、見た目が紅に化けてるだけ」
「術さえ解ければ、自然と戻ってくるしね」
なら良いけど……。
ひまりの辛そうな姿を間近で見た所為か、それが気がかりになっていた俺。肩の荷が下りたようにほっとしながら、雨のようにぽつりと声を落とす。
『狐珠』は、天女ノ花神社に受け継がれてきたモノ。遥か昔、天邪鬼の神が祀られていた時代から。
「術は簡単には解けないけどね」
「熱を与えれば与えるほど、アレを付けたものは化する」
「………解く方法は一つか」
「「『欲情』ではない『愛情』で心身を満たさないと、術は解けない」」
その判別は、
化した者の受け止め方次第だ。
ぽつり、ぽつり……
雨はまだ降り続いていた。