第244章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(31)時が繋がるルージュ編※R18
そして編集長はシャツの左袖を滑らせ手首につけている腕時計を見た後、前に座っている副部長と三成に……
「ちょっと手伝ってくれないか?」
「「???」」
実は……そう話を切り出し、ある計画をしていたことを顔をつき合わせて話した。ひまりの体調が戻るまでの時間を使ってその準備をしておきたいからと聞き、二人は大賛成したように首を縦にコクコク落とす。そして声を揃えてぜひ協力させて欲しいと、二人は目を輝かせた。
「ぜひ、信康くんも……あれ?……さっきまで、ここに……」
「編集長がしみじみと語っている間に、出て行きましたよ。私、今からメイクルームに戻るので見かけたら声掛けておきます」
スタイリストはそう言って立ち上がると、あ!と、短い声を上げ……編集長にひまりの体調が戻り次第、限定ルージュのテスターで仕上げれば良いんですよね?と、念の為に確認する。
すると、
「ん?テスター?いや、俺が家康くんに渡したのは現物だよ」
返ってきた意外な回答。
「え?家康くん?私、彼から何も預かっていませんが……ただよく似たルージュがメイクルームに置いてあったので、てっきりテスターだと」
「可笑しいな。君に渡しそびれていたから、さっきの話をした通り、彼がここに来た時に……」
編集長はそこまで言いかけて、顎に手を当て頭の中にある記憶のメモをぺらぺらとめくり……
ある結論に辿り着くと、
「もしかしたら……ばっちり準備して来てくれるのかもしれないね」
今度は、曖昧な笑みじゃなく完全に苦笑いと言えるような……そんな笑みを編集長は浮かべた。