第240章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(27)時が繋がるルージュ編
抗議できない程、力を抜けたひまりを見て満足げに笑うと……編み込まれた前髪を弄りながら、三つ葉のヘアピンまで指を滑らせ、
「……ほんと単純。亀裂の中を覗けば見えるかも」
耳元で意地悪く囁く。
(ほんと、ずるい……)
少し覗いたが奥に何かが光っているのまでは見えても、色や形などは分からないままだった。
ひまりがお弁当袋を抱えると、
「先に行ってて」
「え?でも、もう予鈴なっちゃったよ?」
「次の体育。見学するように、明智先生に言われたから。……どうせならここでサボる」
「もう!だめだよっ!それに外は寒いから風邪引いちゃう」
無理矢理にでも引っ張って行こうと腕を絡めたが、頬を掠めた指先の温度に思わず驚き、顔を上げれば……
「さっきので、温まったから大丈夫。……それとも……」
もっと熱くしてくれんの?
ドキンッと、打たれたように鼓動が大袈裟なぐらい胸に鳴り響いた。
お弁当包みを持って小走りして去っていくひまり。紺色のブレザーさえ真っ赤に見えてしまう背中を家康は曲がり角で消えるのを見届け……
「……意外と悪趣味とか?」
そう、ボソッと呟くとズボンのポケットに両手を入れ石碑に凭れる。
「……俺が居るの分かって、仲良いところを見せつけるほうが……」
悪趣味だと思うけどね。
信康は立ち上がり、石碑の裏側に背中を預けると……
「……もし、君達二人が幼馴染じゃなかったら。もし、約束を交わしていなかったら……」
もし………
そこまで言いかけて、口をつむぐ。
「何が言いたいワケ。それに、何で約束のこと……」
「さぁ、何でだろうね」
二人は同時に振り返る。
吹き付けた強い風は信康の前髪を靡かせ、隠れていた翡翠の瞳を外気に晒しかけたが……
家康が瞬きをする間に、またその瞳を栗色の髪が覆った。