第52章 風待ち月(1)
(家康様視点)
相合傘の下に書かれた名前。
何となく消したくなくて、ひまりに残して置く。
(わざと、上の方に書いてるし)
最近、伸び出した身長。
でも、黒板の上までは背伸びしてやっと。
ーーお前はただの幼馴染なんて、思ってないんだろ?
あんな低レベルな冷やかしに、つい反応したのは……。
(まさか、聞こえてないよね?)
手を動かしながら、チラッと自分の隣で一緒に黒板を消すひまりを盗み見すると、
「ふふっ……」
俺の方見て笑ってて。
「笑ってないで、手動かしたら」
「だって、家康が必死に黒板消すなんて見たことないから」
冷やかされても呑気だし、能天気だし。ほんと俺ばっか。
必死なのは。
「何か、名前消すのはちょっと勿体無い感じがするね!」
高校生ぐらいなったら、こんな冷やかしサラリと交わせるかも。
ひまりと、ちゃんと恋人同士になってたら。
背後から冷やかしの声を浴びながら、そんな日を夢見た。