第236章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(23)時が繋がるルージュ編
夜のネオン街。
駅前のビルの壁面を彩る碁盤目状の窓明かりの模様は、ついたり消えたりしていて、電気がついている窓は残業者の為の明かりで、一刻も早く家に帰りたいと必死にデスクに誰かが向かっているのだろうか……そんな妄想をしながら編集長は、最上階に掛けられたある看板を見上げる。
「あぁ。明日、急いで企画を進める。ただ、男性モデルの方が少し顔に怪我をしていてね。……いや。大したことはない。また、その辺りはメイク担当の者と相談するよ」
携帯を無造作にステンカラーコートのポケットに仕舞うと、新作ルージュを今度は取り出す。
(時を越えるか……けど、出来れば今回は……)
頭の中に湧き出すイメージ。編集長は自分でも武者震いを起こすぐらい、ぞくぞくと気持ちを高ぶらせた。
「あのルージュ!今度、彼氏におねだりするんだぁ〜」
「良いなぁ。私も自分のご褒美に買っちゃおうかなっ!」
広告看板を指差しながら、
横を通り過ぎていく女性。
それを聞いて編集長は思わず笑みを漏らすと、駅に向かって歩き出そうとした時だった……
ドンッ!……コロンコロンッ…
その女性達の後ろから……
歩いて来た一人の影。
「あ……すいません」
足元に転がったルージュを拾い、
編集長に渡したのは……
「君………。その制服……戦国学園の生徒かい?」
バス停に向かっていた、
ある男子高校生だった。