第235章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(22)時が繋がるルージュ編
駅前のショーウィンドウ。
その前で一見カメラマンが不在したドラマ撮影のような、そうだと言われればすんなり納得さえしてしまうほどのディープなキスシーンを堂々と公衆の面前で行った二人。
声を掛けた女子高生がパタパタと走り去るのを遠巻きに様子を伺い、ヒソヒソと騒いでいた若者は、顔を赤くしたり、羨望の眼差しを向けたりする者。「人違いか」と呟き、何事もなかったようにその場から離れていく者。
(とりあえずは誤魔化せたか……)
学生服でバレるのは、後々に面倒臭いことになりそうだと踏んだ家康。
愛する彼女を見たさに噂が立ち、他校生でも学校に押しかけてきたり、待ち伏せされるのは阻止したい所。
やれやれとした表情で、地面に置いた鞄に向かって手を伸ばす家康。すると前に屈んだ拍子にズキッと……痛みが走りポーカーフェイスが崩れそうになったが、平静を何とか装いひまりに気づかれないように鞄を二つ、素早く肩にかけた。
「ほら、いつまでぼーっとしてんの?」
「……………」
まだ先ほどの濃厚なキスの感触も余韻も残り、戸惑いを通り越して覚めない夢の中に取り残されたように、ひまりはぼんやりとガラスに背中を預けたまま立ち尽くし……
(キスしちゃった……大勢の人前で……あんな…あんな……あんなキス……)
「あんな」
を、心の中でひたすらリピート。
突然、ベットの上でしかしないようなキスに、息が止まるほどの驚きを感じたにもかかわらず、声を上げるのをこらえ、挙動不審になることもなかったのは、自分を褒めてあげたいほどだった。
そんな素直さが前面に出た表情を浮かべたひまりに、家康はちょっとイタズラ心が働き……
「わっ!!」
「……そんな顔してると、キス以上のことしたくなるけど」
「んんっ!///(だめっ!)」
再びガラスに片手を突き、ニヤリと笑う。
ひまりは咄嗟に唇に両手をあて、首をぷるぷると横に振った。